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『日本人の底力』を聞いて 客人:日本総合研究所 寺島実郎さん

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 本日の客人は、日本総合研究所の理事長である寺島実郎でした。「グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を救えるか (生活人新書)」、「世界を知る力 (PHP新書)」、「問いかけとしての戦後日本と日米同盟――脳力のレッスンIII」など、多数の著書があります。AMAZONで検索したら、210件もありました(@_@)。


今回の東日本大震災は、付け焼刃では対応できるようなものではない。明治以降の日本、さらには日本人の文化が問われている問題である。日本人は、絶えず自然災害を克服してきた。今回の震災では、地震、津波、原子力という危機にさらされたが、その中でも原子力は、世界中を震え上がらせた最も深刻なものであった。生身の力で精一杯生きることは美しいが、人間は身の丈を超えた様々な技術を使うようになった。関東大震災のときは24本の電車が脱線して数百人の死者を出したが、今回の震災では新幹線は1台も脱線せずに済んだ。身の丈を超えた様々な技術を使っているが、今回の震災で過去の技術の積み上げで耐えられたものと、原子力のように耐えられなかったものがあったことは冷静に仕訳すべきである。

原子力は多重防御だから安全である、と言われていた。地震にも耐えられるし、津波が来てもディーゼルエンジンがある、と言われてきた。しかし、制御棒までは入れることができたが、冷却することができなかった。女川の原発も津波を受けたが、堤防が高かったために耐えることができた。これは偶然なのか調べたが、実は三陸沖地震の経験から厳しい基準で設計していたものであった。したがって、想定が甘かった東京電力は非難されるべきである。また、絶対に安全だと言われていたので、万が一のことが起こった場合の体制が貧弱だったことも問題だった。

過去の日本は全てだめだ、と感情的になることなく、冷静に機能したこととしなかったことをしっかりと仕分けて考えることが大事である。

日本のエネルギーは、これからは我慢のシナリオを考えなくてはいけないかもしれない。原子力を使わずに自然エネルギーを使う、という構想を描くことも考えなくてはならない。現在の快適な生活を維持したままエネルギーの供給体系を変えることは困難である。また、政治が国民を説得し納得させる力を持ち得なければ、それもできない。政府が我慢のシナリオを国民に説得する覚悟がなければ、また付け焼刃の対応となってしまう。

例えば、江戸時代に3000万人だった人口は、1966年に1億人を超えた。黄金の70年代に、生活はとても豊かになった。1966年に1000ドルだった国民一人当たりGDPは、1981年は10000ドルとなった。今は34000ドルくらいまできている。日本は大量消費社会となり、豊かな国となった。日本が豊かで平和な国となったことは評価すべきである。技術革新ということで家電の技術や早く移動する技術、効率的に生活する技術を発展させてきた。戦後は民主主義ということで、全体の価値を強制されることもなく、自分の人生は自分が決めて良いことになった。団塊の世代は、戦後の良いところを吸収して成長した。管直人も、仙石、鳩山も皆団塊の世代である。

光には影がかならず付きまとう。戦後の民主主義で個を主張できるようになったが、本当の意味での自分の主義主張を思想をしっかり踏み固めて生きる個人主義ではなく、他人に干渉されたくないという私生活主義に留まってしまっている。物理的・物質的に豊かになったからといっても良しと言えない面もある。それらが破綻したように見えるのが今回の出来事である。今まで日本の戦後に胸を張ってきた人もショックを受けているし、これまで影の部分を噛み締めてきた人もショックを受けている。日本の戦後を改めて考えなくてはいけないと思っている。

堤防を再建して街並みを元のもどしたからといって復興・復旧できるという単純な話ではない。新しい日本を作るくらいの大きな思想が必要である。地震の前に国土審議会で配られた資料で、東北6県の人口は去年は約1168万人だったが、2050年には727万人になると予測されていた。地震がなくても人口が440万人以上も減ってしまうのである。65歳以上の人口比率は25.9%から44.6%になると予測されている。飯食う基盤、すなわち産業がないといけない。過疎化と高齢化が今回の出来事でますますスピードアップしてゆく。年収300万円くらいを安定して得られ、胸張って隆々と生きて行ける基盤ができなかったならば、もしくは想像できなかったならば、とてもこの地域が活力ある地域にはならない。

宮城と山形、福島と新潟は距離的にとても近い。日本海側の東北地域と太平洋の東北地域の相関が必要である。アジアを向くためには日本海側を見なくてはいけない。対米貿易は1割、アジアは5割の時代である。関東と東北の相関も必要である。関東の電気、食べ物は東北で作られている。関東に同じような地震が来たら、とんでもないことになる。ITの基盤インフラなど、東京の機能を分散しなくてはいけない。首都機能移転議論において様々な調査が行われたが、岩盤が強くて地震に対して強靭なところは那須だということがわかっている。那須は東北の将来にとって大事な場所である。東京の機能のうち副首都的な機能を那須に作ることが大事。那須を副首都、そして東北の”へそ”として、太平洋と日本海を相関させ、食材王国である東北を食糧の供給地として再建させるような構想が必要である。那須に作る建物は、高層ビルではなく、未来の日本にとって意味のあるものにしなくてはいけない。森に沈む都がよい。完全環境保全、完全リサイクル都市であり、日本が持つ再生可能エネルギー技術をフル活用する。日本の在り方を世界に発信する良いきっかけになる。






大変興味深い話でした。テレビの解説でもおなじみの寺島さんのお話でしたが、とてもわかりやすい話し方で、楽しい30分でした。私は津波で被害を受けた地域を復興するときに、日本が将来目指すべきコンパクトシティを建設して世界に発信すべきだと思っています。世界的に進行する高齢化、過疎化への一つの答えを提示することで、海外からも建設やノウハウへの引き合いがきて、新しい日本の輸出産業になるのではないか、そして太陽光などの自然エネルギーをどんどん発電することによって市民の収入が確保できるのではないか、と考えています。人は高台に住み、平地には太陽電池、海には風力発電は立ち並ぶイメージです。これによって住民の基本収入が得られ、プラスアルファで漁業を営むことができれば、きっと高齢化、過疎化への処方箋になるはずです。そんなことを考えていたので、”森に沈む都”という言葉は琴線に響きました。また、高齢化、過疎化への処方箋が必要という点も、とても共感するところです。来週は続きのお話を聞けるので、とても楽しみです。










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